通院日数で変わる自賠責保険の慰謝料計算方法

最終更新日 2025年12月5日
交通事故の被害者へは主に自賠責保険と任意保険から治療費などの補償が支払われます。
今回は、交通事故の被害に遭われた方が知っておくべき自賠責保険の補償内容と、その具体的な計算方法、さらには保険会社との交渉のポイントまでを詳しく解説します。
自賠責保険は、交通事故で人(被害者)が死傷した場合の損害を補償するための保険です。物損事故(車の修理費など)には適用されません。被害者の救済を第一の目的としているため、加入が法律で義務付けられています。
自賠責保険とは:交通事故被害者のための最低限の補償
自賠責保険は、交通事故による被害者を救済するための強制加入保険であり、交通事故の加害者が加入している任意保険が補償(自賠責保険を含めた治療費や慰謝料、損害賠償など)の対応を担当することになります。この自賠責保険から支払われる金額は、傷害部分に対して120万円が上限と定められています。もちろん、それ以下の損害であれば、実際の損害額が請求可能です。
多くの場合、交通事故の被害に遭った際には、相手方の任意保険会社が窓口となり、補償の対応を進めてくれます。しかし、120万円の自賠責保険限度額を超えた場合でも、残りの賠償費用は加害者側の任意保険会社が支払うことになります。
残念ながら、加害者側の任意保険会社が、これらの制度や計算方法について丁寧に説明してくれることは少なく、被害者の方がご自身の権利や受けられる補償の内容を十分に理解しないまま示談に至ってしまうケースが少なくありません。示談の段階で手遅れになる前に、正しい知識を身につけることが非常に重要です。慰謝料や治療費が支払われるまでの流れを事前に確認しておくと、よりスムーズに進められるでしょう。
交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合:ご自身での請求も可能
もし加害者が任意保険に加入していない場合、あるいは加入していても何らかの理由で保険会社が対応しないようなケースでは、被害者ご自身で自賠責保険に直接請求(被害者請求)を行う必要があります。このような状況に備えるためにも、基本的な自賠責保険の内容を理解しておくことが非常に大切です。被害者請求は複雑な手続きを伴うため、専門家への相談も検討しましょう。
自賠責保険の補償の内訳と計算方法
自賠責保険の補償は、主に以下の3つの項目に分けられます。
- 治療関係費
- 慰謝料
- 休業補償
それぞれの補償について、詳しく見ていきましょう。
自賠責保険でカバーされる費用の詳細な内訳については、自賠責保険でカバーされる費用の内訳も併せてご確認ください。
自賠責保険で支払われる治療関係費:自己負担は原則ゼロ
病院や整骨院で実際に発生した治療費用は、妥当な範囲内であれば医療機関から各保険会社に直接請求されます。交通事故治療の場合、患者様が窓口で治療費を自己負担する必要は原則ありませんのでご安心ください。
自賠責保険は対人賠償を目的としているため、人身に関わる治療費が対象となりますが、「物損事故の場合の治療費・慰謝料について」といった疑問については、個別の状況に応じた確認が必要です。
鍼灸や温泉療養にかかった費用も支払いの対象となる場合がありますが、これは医師がその必要性を認め、実際に医師からの指示があるものに対してのみ適用されます。必ず事前に医師に相談し、指示を仰ぎましょう。
その他、治療関係費として、通院にかかったバス代、電車代などの公共交通機関の費用も支払われます。これらの交通費は後でまとめて請求するため、領収書を保管するか、日付・区間・金額を詳細にメモしておいてください。
受傷の部位や程度によって歩行が困難な場合は、タクシー代も認められることがあります。こちらも領収書の保管が必須となります。
【豆知識】付添費用や介護費用も対象になる場合がある
- 症状が重く、医師の指示で入院中に付添いが必要と認められた場合、その付添費用が自賠責保険の対象となります。
- 退院後も自宅での介護が必要と認められた場合、介護費用も補償の対象となることがあります。
- これらの費用も、医師の診断や指示が重要となるため、必ず事前に相談しましょう。
自賠責保険で支払われる慰謝料:日額基準で計算
慰謝料とは、交通事故による傷害で被害者が受けた肉体的、精神的な苦痛を金銭に換算したものです。自賠責保険における慰謝料は、通院1日につき4,300円と定められています。ただし、月の慰謝料には上限が設定されており、月額12万9千円が上限です。より詳しい自賠責保険での慰謝料計算方法を詳しく見るで詳細をご確認ください。
慰謝料の計算には、以下の2つの日数を比較し、少ない方が基準日数として適用されます。
- [1]全治療期間(入院期間+通院期間)の日数
- [2]実通院日数(治療期間中に実際に通院した日数)×2の日数
慰謝料計算の具体例:通院回数が慰謝料に影響する理由
例えば、交通事故で「頚部捻挫:10日間の加療を要する」と診断され、90日間にわたって通院治療を受けた交通事故被害者の場合で比較してみましょう。
<ケース①>病院だけに週に1度通院された場合
整形外科で痛み止め薬と湿布を処方され、週に1度通院し、90日間で全12回通院された場合の慰謝料。
実通院日数の2倍:12日 × 2 = 24日
全治療期間:90日
この場合、90日と24日を比較して少ない方の24日が基準日数となります。
慰謝料:24日 × 4,300円 = 103,200円
<ケース②>病院に週に1度と併せて整骨院に週に3度通院された場合
整形外科には週に1度、整骨院へ患部に対する直接的な施術を受けるために週に3度、全48回通院された場合の慰謝料。
実通院日数の2倍:48日 × 2 = 96日
全治療期間:90日
この場合、90日と96日を比較して少ない方の90日が基準日数となります。
慰謝料:90日 × 4,300円 = 387,000円
このように比較すると、ケース①では103,200円、ケース②では387,000円となり、治療内容も慰謝料も、ケース②のように病院と整骨院を併用して適切な回数通院した場合の方が、より十分に補償されることがお分かりいただけるでしょう。
※自賠責保険の傷害部分の限度額120万円を超えた場合は、任意保険の適用となるため、計算方法も任意保険基準となり、場合によっては減額されることがあります。
自賠責保険で支払われる休業損害:主婦(主夫)の方も対象
休業損害とは、交通事故に遭って仕事や家事を休業し、その期間に得られなかった収入を補償するものです。自賠責保険では、一日につき6,100円が支払われます。
事故前の実際の収入が6,100円より高い給与所得者や事業所得者の方は、19,000円を上限に休業損害が支払われます。
ここで特に注目していただきたいのが、主婦(主夫)の方も休業損害を受け取れるということです。これは意外と知られていない事実ですので、ぜひこの知識を活用し、保険会社に申請の手続きを行ってください。主婦(主夫)の休業損害について知りたい方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
なお、無職の方、学生、年金生活者の方は、原則として休業損害は受け取れません。ただし、学生が事故の怪我などによって留年し、二重に学費を負担しなければならない場合は、その学費が損害に含まれることがあります。
人体をサポートする器具も自賠責保険の補償対象
自賠責保険の補償対象は、被害者ご自身に直接かかる治療費だけではありません。人間の機能を補助する器具を損なった場合なども、自賠責保険から支払われます。
例えば、松葉杖や義足、眼鏡、コンタクトレンズなどが交通事故によって破損した場合は、それらの修理費用や購入費用も自賠責保険の対象となります。購入時の領収書を必ず保管しておきましょう。
整形外科だけではなく整骨院も併用して通院するには?
交通事故による怪我の治療において、病院だけでなく整骨院での通院治療を受けることは、患者様に認められた権利です。特に捻挫・打撲・挫傷といった外傷治療であれば、整骨院を利用することが自賠責保険で認められています。
保険会社や病院の医師が、原則としてこの権利を侵害することはできません。交通事故治療で病院と整骨院を上手に併用する方法を理解し、ご自身の症状に合わせた最適な治療環境を整えましょう。
整骨院へ通院を開始するためには、まず病院(整形外科)で検査を受け、捻挫や打撲、挫傷などの傷病名が記載された診断書を医師に発行してもらうことが必要です。この診断書に記載されている傷病(怪我の箇所)に対する治療を、相手方保険会社が補償する形で受けることができるようになります。交通事故による頚部捻挫(むちうち)の症状と治療について詳しく知ることで、より適切な対応が取れるでしょう。
同乗者の慰謝料請求について
交通事故の被害者は運転者だけでなく、同乗者も補償の対象となります。もし交通事故に遭われた方が同乗者で、慰謝料請求について疑問をお持ちでしたら、交通事故の同乗者の慰謝料請求はどうなる?の記事で詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。

