むちうちの診断書の重要性と取得時の注意点

最終更新日 2025年6月11日
交通事故に遭うと、突然の出来事にパニックになったり、興奮状態になったりすることがよくあります。そういった精神的な状態にあると、必要な事故対応が抜けたり、判断が遅れたりする可能性があり、その結果、本来利用できるはずの保険や補償が受けられなくなるおそれがあります。
この記事では、特に交通事故で多い「むちうち」の治療において、自賠責保険を適切に利用するために極めて重要な「診断書」をテーマに、以下のことがわかるように詳しくまとめています。
- むちうちで診断書が重要な理由
- 必要な診断書の種類とそれぞれの役割
- むちうちの診断書作成時の注意点
- 診断書に書かれている全治日数の意味と実際の治療期間
- 診断書取得後の保険請求の流れ
交通事故のむちうちでお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。適切な診断書を取得し、正しい知識を持って対応することで、安心して治療に専念できる環境を整えましょう。
今すぐ治療先を探したい方はサポートセンターへご相談ください。
目次
むちうちで診断書が重要な理由
むちうちの治療を進める上で、なぜ診断書がこれほど重要になるのでしょうか?また、作成された診断書は具体的にどこに提出する必要があるのか、その役割と重要性について詳しく見ていきましょう。
診断書は、単にケガの証明だけでなく、交通事故の適切な処理、保険からの補償、そして将来的な後遺障害認定といった、あらゆる側面でその効力を発揮する、極めて重要な書類となります。
交通事故の処理に診断書が必要不可欠な理由
交通事故に遭った際には、まずはケガ人の救護を優先しましょう。重傷者がいれば速やかに救急車を要請し、警察へも必ず連絡することが義務付けられています。
そして、事故の初期対応が落ち着いたら、なるべく早めに病院に行き、診察を受けることが何よりも重要です。なぜなら、その診察によって発行される「診断書」がなければ、損害賠償や慰謝料を適切に請求することができないためです。
診断書は、交通事故によって負ったケガが実際に存在すること、そしてそのケガが交通事故と因果関係にあることを医学的に証明する唯一の公的書類となります。この証明がなければ、保険会社は治療費や慰謝料などの支払いを拒否する可能性があります。
診断書の提出先とそれぞれの役割について
診断書は、その目的によって主に以下の3つの主要な提出先と、その他にも会社などに提出する種類があります。それぞれの提出先での役割を理解し、適切に提出することが、スムーズな事故対応と補償の獲得につながります。
- 警察への提出用
- 保険会社への提出用
- 後遺障害認定用
- 休業補償用(会社への提出)
1. 警察への提出:物損事故から人身事故への切り替え
物損事故から人身事故に切り替えるためには、警察へ診断書を提出する必要があります。
むちうちのように、見た目の外傷が分かりにくいケガの場合、警察は事故当初「物損事故」として処理をすることがよくあります。しかし、物損事故のままでは、ケガの治療費や入通院慰謝料などを加害者側の保険会社に請求することはできません。物損事故の補償対象は、あくまで車両や物に限定されるからです。
また、物損事故の扱いだと、実況見分(事故現場の状況を警察が詳細に調査・記録する手続き)が行われないという大きなデメリットもあります。後の示談交渉で過失割合や事故状況で揉めた場合、実況見分調書がなければ、被害者側の主張を裏付ける客観的な証拠が極めて乏しくなることが考えられます。実況見分調書は、交通事故の状況を明確にする上で非常に重要な証拠となります。
警察へ診断書を提出する期限は法律で明確に定められているわけではありませんが、なるべく早めに診断書を取得して、警察に提出することをおすすめします。診断書が遅くなった場合、交通事故とむちうちによる症状の因果関係を警察や保険会社に認めてもらえない可能性が高まります。一般的には、事故日から2~3日以内、遅くても一週間以内には提出するようにしましょう。体調が許す限り、速やかな対応が求められます。
2. 保険会社への提出:治療費や慰謝料の請求に必須
自賠責保険を利用してケガの治療や施術を受けるためには、保険会社に診断書を提出する必要があります。この提出方法には、大きく分けて「一括対応」と「被害者請求」の2通りがあります。
請求方法 | 提出方法と特徴 |
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一括対応 | 加害者の任意保険会社が、治療費の支払いを含め、窓口となって請求手続きを代行する方法です。被害者は、任意保険会社に医療情報開示の同意書を提出することで、診断書なども保険会社が医療機関から直接取得してくれます。多くのケースでこの方法が取られ、被害者の手続き上の負担が軽減されます。 |
被害者請求 | 被害者自身が直接加害者の自賠責保険会社に治療費や慰謝料などを請求する方法です。この場合、被害者が自ら医師の診断書や診療報酬明細書などの必要書類を自賠責保険会社へ提出します。手続きは煩雑になりますが、自分のペースで進められ、交渉の主導権を握りやすいというメリットがあります。 |
多くのケースでは、一括対応が行われますが、被害者の意向や状況によっては被害者請求を選択することも可能です。
保険会社への診断書の提出期限は、原則として事故発生日から3年です。この期間を超えてしまうと、慰謝料や治療費、休業損害などを請求する権利が消滅してしまうため、症状が残っている場合は、必ず期限内に提出できるよう、早めに対応しましょう。特に、治療が長引く場合は、定期的に診断書を提出し、状況を保険会社に報告することが重要です。
3. 後遺障害認定用:症状固定後の補償のために
交通事故によるケガの治療を継続しても、これ以上改善が見込めないと医師が判断する状態を「症状固定(しょうじょうこてい)」と呼びます。一般的に、むちうちの場合は事故から約6ヶ月がその目安となることが多いです。
症状固定になると、原則として治療費の支払いやその他の補償(休業損害など)が打ち切られます。しかし、症状固定後も身体に痛みやしびれなどの症状が残ってしまい、それが日常生活や仕事に支障をきたす場合は、「後遺障害認定」を受けるための手続きに進むことになります。
後遺障害認定を受けるためには、医師によって作成される「後遺障害診断書」が必須です。この診断書には、症状の内容、治療経過、現在の症状、将来的な見込みなどが詳細に記載され、後遺障害の有無や等級を判断する上で最も重要な書類となります。適切な後遺障害診断書がなければ、等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益(事故がなければ将来得られたであろう収入の損失)などを請求することができません。医師には、症状を正確かつ具体的に記載してもらうよう、丁寧に依頼することが大切です。
4. 休業補償用:仕事ができない期間の収入補償
上記の3種類の診断書に加えて、勤務先に提出することで休業補償を受けるための診断書も必要になる場合があります。
交通事故によるケガ(むちうちを含む)によって、仕事ができなくなった期間や、通院のために仕事を休まざるを得なかった期間がある場合、「ケガによって就労が難しい」と医師が記載した診断書があれば、その期間の収入に対する補償(休業損害)を請求できます。
休業補償は、事故前の収入を基準に、休業した日数に応じて一定額が補償される制度です。自己判断で勝手に仕事を休んだ場合は、補償を受けられない可能性があるため、必ず医師の診断を受け、診断書に休業の必要性が明記されていることが重要です。会社に提出する前に、まずは加害者側の保険会社にその旨を伝え、必要な手続きを確認しましょう。
診断書取得後の保険請求の流れについては、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。
むちうちの診断書作成時の注意点
医師にむちうちの診断書を作成してもらう場合は、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?自賠責保険からの補償をしっかりと受けられるよう、以下のポイントにお気をつけください。
医師に症状を詳しく、正確に伝える重要性
むちうちは、レントゲンやMRIなどの画像検査では、骨折や椎間板ヘルニアのような明確な異常が見つかりにくい外傷です。そのため、診断書の記載内容は、患者さん自身の自覚症状をメインに作成されることになります。つまり、あなたが医師に伝えた内容が、診断書の土台となるのです。
首の痛みはもちろんのこと、首の動かしにくさ、張り感、熱感、腕や手のしびれ、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り、倦怠感、集中力の低下、不眠など、体に現れる気になる症状は、どんなに些細に思えても、漏れがないように詳しく、正確に伝えるようにしてください。特に、事故直後には自覚症状がなくても、時間が経ってから症状が出始めることも多いため、事故から数日経って症状が出た場合も、必ず医師にその旨を伝えましょう。
些細に思える症状もしっかり伝えるべき理由
「これくらいの痛みなら言わなくてもいいかな」「こんな症状、気のせいかもしれない」と自己判断はしないようにお気をつけください。些細に思える痛みや違和感も、後々の治療や補償に大きく影響する可能性があります。
交通事故直後は、脳が興奮状態にあるため、アドレナリンなどのホルモンの影響で、一時的に痛みが感じにくくなったり、自覚症状に乏しいことがあります。しかし、時間が経過して、アドレナリンの作用が治まってから不調を訴えたとしても、「事故の衝撃とは関係がない別の原因による症状」と判断されるおそれがあります。これは、交通事故によるケガと症状の「因果関係」が否定されてしまうことを意味し、治療費や慰謝料の請求に大きな支障をきたします。
そのため、事故後できるだけ早期に医療機関を受診し、その時点で感じる全ての症状を、詳細かつ具体的に医師に伝えることが極めて重要です。
診断書の費用は加害者に請求可能
診断書の発行にかかる費用は、交通事故による損害の一部と見なされるため、加害者の自賠責保険にて補償されます。自賠責保険の上限額内で、実費が支払われることになります。
請求時に必要になるため、病院で診断書を受け取る際は、必ず領収書をきちんと保管するようにしてください。領収書がないと、後から請求できない場合があります。複数の医療機関で診断書を作成してもらった場合も、それぞれの領収書をまとめて保管しておきましょう。
むちうちは診断書では全治2週間の場合が多い?その意味と注意点
むちうちの診断書には、「頚椎捻挫:全治2週間」と記載されることが非常に多いです。この「全治2週間」という記載は、多くの方が不安に感じる点の一つですが、その意味を正しく理解しておくことが重要です。
この表記は、道路交通法施行令における「人身事故の軽重」に関する基準と関連しています。具体的には、被害者の全治期間が15日を超えた場合、交通事故加害者の行政処分(点数)や刑事処分(罰金など)が重くなる可能性があるため、警察が初期の事故処理を円滑に進める目的で、明らかな外傷がみられないむちうちの場合に「全治2週間」と診断される傾向があると言われています。これは、あくまで警察が事故を処理する上での便宜的な基準であり、実際の治療期間や症状の重さを反映しているわけではありません。
診断書の全治日数はあくまでも目安に過ぎない
診断書に記載されている全治日数は、あくまでも医師が診断書作成時点で見積もった「一般的な回復期間」であり、法的な治療期限や補償の打ち切りを意味するものではありません。これは非常に重要なポイントです。
実際のむちうちの治療期間は、症状の程度や個人の回復力によって大きく異なります。一般的に、むちうちの施術期間は、最低でも3ヶ月ほどかかると言われています。症状が軽ければ1週間程度で改善される場合もあれば、重い症状や複雑なケースでは3ヶ月以上痛みが続き、半年から1年以上の治療が必要となる場合もあります。
全治日数を超えても治療費や補償は受けられる
「診断書に記載されている2週間を超えたら、もう補償は受けられないの?」と不安に思う方がいるかもしれません。しかし、ご安心ください。診断書に記載されている全治日数はあくまで目安であり、症状が改善されていない場合は、引き続き治療費や休業損害などの補償を受けられます。
重要なのは、症状が続いている限り、治療を継続することです。むちうちの症状が改善しない場合は、医師にその旨をしっかりと伝え、必要な検査や治療を続けてもらいましょう。保険会社から治療の打ち切りを打診された場合でも、医師が必要と判断すれば治療は継続できます。その際は、保険会社と交渉が必要になることもありますので、不安な場合は専門家(弁護士など)に相談することも検討してください。
整骨院でむちうち施術が受けられる
むちうちの症状を早期に改善し、後遺症を残さないためには、整形外科での治療だけではなく、整骨院・接骨院での施術も非常に有効な選択肢となります。病院での治療と併用することで、相乗効果が期待できます。
整骨院・接骨院で行われる施術とメリットについて
整骨院・接骨院では、柔道整復師という国家資格を持った専門家が、むちうちで損傷した首や背中、肩まわりを中心とした手技によるもみほぐし、骨格の矯正、電気施術(低周波、高周波、超音波など)を行います。
これらの施術は、硬くなった患部の筋肉を直接ほぐし、血行を促進する効果があります。血行が促進されることで、損傷部位の回復に必要な酸素や栄養素が運搬されやすくなり、自然治癒力が高まります。また、筋肉の緊張が緩むことで、首の可動域も改善されやすくなります。
病院での交通事故治療は、症状の診断、薬の処方(湿布や痛み止め)、画像検査などが中心となることが一般的です。一方で、整骨院・接骨院では、実際に患部に手技や物理療法を加えて、身体の外側からアプローチしていきます。患部の治癒力が高められ、神経を刺激する骨格のゆがみも解消されることから、後遺症も残りにくくなると言われています。また、病院に比べて通院の自由度が高く、夜間や土日も開いている院が多いため、仕事などで忙しい方でも継続して通院しやすいというメリットもあります。
病院と整骨院の併用には医師の同意が必要不可欠
整骨院・接骨院と整形外科を併用する場合は、必ず事前に整形外科の医師の同意をもらうようにしてください。それに加え、保険会社へも併用する旨を伝えるようにしてください。
自己判断で医師の同意を得ずに併用していた場合は、整骨院・接骨院の施術費用が自賠責保険や任意保険から補償されない可能性があります。これは、保険会社が医療機関による診断と治療計画に基づいて治療費の支払いを判断するためです。スムーズな補償を受けるためにも、この連携は非常に重要です。
また、整骨院や接骨院をメインに利用される場合も、月に1、2回を目安に整形外科の医師の診断を受けるようにしてください。
※接骨院・整骨院は医療機関ではないため、診断は行えません。医師の定期的な診察は、症状の経過を医学的に記録し、必要に応じて治療方針を見直す上で不可欠です。これにより、治療の必要性が保険会社に適切に伝えられ、後遺障害認定など、将来的な補償の申請にも影響を与えます。
むちうちへの治療や施術には診断書が必須です
- 加害者側の保険会社からの補償でむちうちの治療を受けるためには、警察や保険会社に診断書を提出する必要がある
- むちうちの診断を受ける際には、医師に詳しく症状を伝えるようにする(些細な症状も含む)
- 診断書に書かれているむちうちの全治日数はあくまでも目安であり、実際の治療期間は異なる場合が多い
- 医師の同意を得られれば、整骨院や接骨院でむちうちへの施術を受けられる(ただし、定期的な医師の診察は継続する)
交通事故直後は、痛みを感じにくいかもしれません。しかし、適切な補償を受け、後遺症を残さないためにも、なるべく早めに病院に行って診断書をもらうようにしましょう。そして、その後の治療方針や補償について不安がある場合は、専門家(弁護士や整骨院の専門スタッフなど)に相談することも検討してください。
また、医師の診断書と同意がありましたら、整骨院や接骨院でむちうちへの施術を受けることが可能です。整形外科と整骨院・接骨院のそれぞれの強みを活かし、連携して治療を進めることで、より早期かつ根本的な改善を目指しましょう。