警察による交通事故の現場検証と注意すべき点

最終更新日 2025年6月11日
交通事故が発生した後には、警察官が現場の状況を確認し、その詳細を記録します。
特に人身事故であれば、「実況見分」と呼ばれる重要な調査が行われ、その結果は「実況見分調書」としてまとめられます。事故現場では警察官からの質問に答える必要がありますが、事故の衝撃で動転していたり、元々口下手な方にとっては、戸惑ってしまうことがあります。時には、それが原因で警察官との認識に食い違いが生じ、後の示談交渉で不利になるケースもあるため、細心の注意が必要です。
そこで今回は、事故発生後の現場検証で気を付けるべきポイントを詳しく解説します。あくまでも事実を正確に確認してもらうことが重要であり、加害者側の主張とは対立することも多いという点を理解しておきましょう。
現場検証で気をつけるべき点:冷静な対応と正確な情報伝達の重要性
現場検証でよくある状況:動転、加害者・目撃者の証言、警察官の先入観
実況見分の際に被害者の方からよく聞かれるのは、事故直後の動転や混乱です。突然の事故に遭い、精神的に動揺している状況で、冷静に状況を説明するのは非常に困難です。口下手な方であれば、さらに困惑してしまうこともあるでしょう。
また、厄介なことに加害者や目撃者が予想外の発言をすることもあります。自分を守ろうとする加害者としては、被害者の落ち度を指摘してくることもたまにあります。また、目撃者が、被害者の知らない情報を伝えてくることもあります。被害者からすると、目撃者が事実と異なることを話しているように見えてしまうこともありますが、実際には被害者がその事実を知らないだけであって、目撃者は客観的な事実を話していることもあります。
加害者や目撃者がそのように話してくるので、警察官もそれに影響されてしまい、被害者に強く質問してくることや、特定の方向性で調書を作成しようとすることもあります。しかし、警察官も人間であり、必ずしも完全に中立な立場とは限りません。このような状況でも、自身の記憶と事実に基づいて冷静に対応することが求められます。
現場検証では適当に答えない:正確な供述の徹底
ところで警察は、事故現場での実況見分に基づき「実況見分調書」を作成しています。この書類は、後の示談交渉はもちろん、裁判でも活用される非常に重要な証拠書類です。そのため、被害者としては、あくまでも正確な内容を警察官に伝える必要があります。たとえ加害者から圧力をかけられたり、威圧的な態度を取られたりしても、自身の記憶にある事実のみを冷静に伝えるべきです。
もし、状況をはっきりと思い出せない部分がある場合は、適当に答えるべきではありません。曖昧な記憶や推測で答えることは、後になって自身の主張と矛盾が生じ、自分にとって不利な状況を作り出してしまう可能性があります。「たぶんそうだったと思います」「かもしれません」といった曖昧な表現は避け、事実のみを断定口調で話すのが望ましいです。不確かな場合は「今ははっきりと思い出せません」と正直に伝えましょう。
下記の3点は、特に気を付けましょう。
- 警察官には真実を伝える
- 加害者の意見と違っていても、一旦は冷静に自身の主張を伝える(まずは実況見分調書に記録してもらう)
- 現場で加害者と口論しない
この3点目は特に重要で、現場検証の目的は相手と口論することではありません。あくまでも事故の状況を客観的に、そして正確に警察官に伝えることに集中しましょう。
現場検証だけでなく自分でも証拠を取る:未来の自分を守るために
また交通事故が発生すれば、後の示談交渉や、必要であれば後遺障害の申請手続きを行うことになります。その際には、損害賠償額や後遺障害等級が決定されることになりますが、その決め手になるのは客観的な事実に基づいた「証拠」なのです。警察官は現場の状況を記録してくれますが、実際にはそれだけでは不十分なことも多いです。被害者としては、できるだけ現場で証拠を記録するようにしましょう。これは、後の交渉を有利に進めるためだけでなく、自身の正当な権利を守るために不可欠な行動です。
現場検証で嘘を付かない:信頼性を損ねる行為は避ける
当然ながら、現場検証の際に嘘を付くべきではありません。警察官もプロですから、矛盾点や不自然な点は見抜いてしまいます。被害者の方から嘘を付くことはまずないにしても、加害者が虚偽の発言をすることはあり得ますが、それは避けるべきです。警察が現場の状況を詳細に確認すれば、真実は必ず発覚してしまいます。現場検証では、あくまでも事実のみを伝えるようにしましょう。嘘はあなたの信頼性を著しく損ない、後の交渉で不利になる要因となります。
交通事故の証拠の信頼性とそれを記録する方法:スマホを最大限活用しよう
警察が現場検証をする理由と証拠の信頼性:客観性が命
上記でも少々触れましたが、被害者も現場では自ら積極的に証拠を集めるよう努めるべきです。後々の示談交渉を有利に進めるためにも、警察の記録だけに頼らず、自分でも証拠を収集しておくべきなのです。
そもそも警察が現場検証を行う理由は、当事者の証言だけでは不十分で、信頼性が低い可能性があるからです。確かに加害者と被害者はそれぞれ主張を述べますが、それぞれが自分に有利な証言をする可能性があり、本人が意図せずとも記憶違いや感情的な偏りが生じることもあります。しかし、客観的な証拠は「事実」を雄弁に語ります。
例えば、事故の状況を示す画像があれば、それは揺るぎない証拠になるでしょう。ドライブレコーダーなどに車間距離や衝突時の映像が映っていれば、それらは極めて有力な証拠となります。このような客観的な証拠は、示談交渉を有利に進めるための強力な材料となるのです。
交通事故の現場で証拠を集める方法:負傷時は無理せず、第三者の協力も
ちなみに証拠を集める方法ですが、一応は手書きのメモでも構いませんが、それよりもスマートフォンを活用するのが断然おすすめです。幸いにもスマートフォンには、高画質の動画や静止画などを手軽に撮影できる機能が備わっています。それで現場の全体像から細部までを様々な角度から撮影しておくだけでも、有力な証拠を揃えられるでしょう。また、音声録音機能を使って、警察官や加害者との会話を記録するのも有効です(ただし、録音の合法性については地域の法律を確認してください)。
ただし、負傷していてご自身での撮影が難しい時は、無理する必要は一切ありません。まずは自身の治療に専念すべきです。その場合でも、可能であれば、同乗者や近くにいた第三者、または後日親族などに依頼して現場の状況を記録してもらうのもおすすめです。また、事故から時間が経っていても、改めて現場に足を運び、状況を記録できることもあります。
具体的には、下記のような証拠を記録するよう努めておきます。
- 事故車両の全体の損傷状況(前後左右、上部など様々な角度から)
- 衝突地点の具体的な位置と、そこから車両が移動した軌跡
- ブレーキ痕、タイヤ痕
- 道路上の散乱物(ガラス片、車の破片など)の位置
- 信号機、一時停止の標識、横断歩道などの交通規制に関するもの
- ガードレール、電柱、壁などの施設物に対する損傷
- 周囲の交通状況や見通し(周辺の建物、樹木なども含めて)
- 事故当日に着用していた衣服や所持品の損傷状況
- 加害者や目撃者の車両ナンバー、連絡先、氏名(可能であればその場で記録)
- 交通事故発生時刻、天候、路面状況
これらの証拠は、なるべく早めに記録しておきましょう。時間が経過すると、現場から証拠が失われてしまったり、記憶が曖昧になったりするからです。
交通事故の直後に注意すべき点:後悔しないための初期対応
交通事故は人身事故で処理してもらう:補償の範囲を確保するために
現場検証の前段階、つまり事故直後にも気をつけるべき点があります。上述の「実況見分調書」が作成されるのは、あくまでも「人身事故」に限られます。「物損事故」では原則として作成されません。
現場検証は、警察としても手間と時間がかかる作業です。そのため、負傷の程度が軽い場合や、加害者が「物損で処理したい」と主張する場合、警察官や相手の保険会社から「物損事故で処理しませんか?」と勧められることがよくあります。しかし、人身事故だった場合は、その交渉に安易に応じる必要は決してありません。
人身事故と物損事故では、受け取れる慰謝料や補償の範囲が大きく異なります。物損事故として処理されてしまうと、治療費や休業損害、入通院慰謝料といった「人身に関する損害」が補償されなくなってしまう可能性が非常に高いです。慰謝料の金額が大幅に安くなってしまう可能性が大きいため、身体に少しでも痛みや違和感がある場合は、必ず「人身事故」として処理してもらうよう、強く主張しましょう。
また、物損で処理されてしまうと、実況見分調書が作られなくなってしまいます。これは、後の示談交渉や後遺障害申請において、事故状況を証明する重要な証拠が不足してしまうことを意味します。やはり、身体に痛みがある場合は人身事故として警察に届け出ることが賢明です。
交通事故に遭ったらまず何をすべき?注意点まとめも、初期対応について詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
交通事故の現場での金品授受や即示談には応じない:冷静な判断が重要
また、一部の加害者によっては、事故現場にて「これで示談にしたい」「迷惑料としてお金を渡すので警察には届けないでほしい」などと、金品を渡すことを交渉してくることがあります。いわゆる口止め料のようなものです。
当然ですが、それには絶対に応じるべきではありません。根拠が曖昧な金品を受け取ることは、後になって「示談が成立した」と主張されたり、受け取った金額が後の正当な損害賠償額から差し引かれたりするなど、面倒なトラブルの原因になる可能性が非常に高いからです。
金品だけでなく、その場で即示談にも応じないようにしましょう。交通事故の損害賠償額は、治療期間、後遺障害の有無、過失割合など、様々な要素を考慮して算出されるため、事故直後に正確な金額を判断することは不可能です。その場で安易に示談を行ってしまい、話し合いで一定の結論に達してしまうと、後になって身体に重い症状が出たり、想定以上の治療期間を要したりした場合でも、合意内容をキャンセルするのが極めて難しくなります。たとえ口約束であっても、即示談の合意内容は有効であると見なされることがあります。受け取れる慰謝料や治療費、休業損害などにも大きな影響を及ぼしますから、安易に応じるべきではありません。
ちなみに、もし万が一、現場で金品などを受け取ってしまったとしても、後日に修正を求めることは一応可能です。しかし、そのためには複雑なやり取りや交渉が必要になり、精神的な負担も大きくなることが多いので、現場では何も受け取らないようにすることが最も賢明な対応です。
まとめ
交通事故の現場検証では、口下手な方や動転している方は、うっかり間違った発言をしてしまうこともあります。加害者や警察官との間で口論になることもあり得ますが、現場検証の段階では事実のみを冷静に伝えることを何よりも心がけましょう。後の示談交渉の段階でしっかりと主張すれば良いのです。現場検証ではあくまでも、事故の真実を正確に伝えることに集中しておきましょう。
そして、警察任せにせず、ご自身でも積極的に証拠を集めておくことが非常に重要です。スマートフォンを活用して、事故現場の状況や車両の損傷などを写真や動画で詳細に記録しておきましょう。これらの客観的な証拠は、後々の交渉であなたの主張を裏付ける強力な武器となります。
事故直後は、加害者からの金品授受や即示談の提案には絶対に応じるべきではありません。適切な慰謝料や損害賠償は、冷静に治療を進め、専門家と相談しながら、法的な手続きを通じて受け取るようにしましょう。あなたの身体と権利を守るために、初期対応の重要性をぜひ理解してください。