交通事故の後遺障害を被害者請求するメリットと申請方法

最終更新日 2025年12月5日
交通事故で怪我を負い、治療を続けても症状が改善せず、「これ以上治療しても良くならないだろう」と判断される状態になった場合、それは「後遺障害」として認定される可能性があります。後遺障害が認定されると、その後の生活に影響が出る可能性があるため、適切な補償を受けることが非常に重要です。
後遺障害の申請方法には大きく分けて2つの方法があります。一つは加害者側の任意保険会社に手続きを一括で任せる方法、もう一つは被害者自身が直接自賠責保険に請求する「被害者請求」です。どちらの方法を選ぶかによって、手続きの流れや結果に大きな違いが生じる可能性があります。
特に、後遺障害が認定される可能性を最大限に高め、適切な補償を受け取るためには、弁護士に相談し、被害者請求を行うのがおすすめです。たしかに被害者請求は必要書類を多く揃える必要があるなど、手続きの手間がかかる側面もありますが、弁護士に依頼すればこれらの手間を全て任せられるため、被害者は治療に専念しながら、被害者請求のメリットだけを受け取ることができます。
後遺障害の申請方法と被害者請求の具体的な流れ
後遺障害の主な3つの申請方法
交通事故による怪我で慰謝料を受け取る際、通常は加害者が加入している自動車保険会社から支払われます。自動車保険には「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があり、後遺障害の申請手続きは、このどちらに、どのような形で請求するかによって、以下の3つの方法に分類されます。
- 1. 被害者自身で「被害者請求」をする
- 2. 弁護士に依頼し、「被害者請求」を代行してもらう
- 3. 任意保険会社に全ての手続きを「一括で任せる」(事前認定)
この中で、最も被害者にとって有利になりやすいとされるのが「弁護士に依頼し、被害者請求をする」方法です。
被害者自身での被害者請求の大まかな流れ
被害者自身で「被害者請求」を行う場合の大まかな流れを確認しましょう。
- 保険会社の特定:
まず、加害者が加入している自賠責保険会社を特定する必要があります。これは、加害者の自賠責保険証明書や、自動車安全運転センターが発行する交通事故証明書で確認できます。 - 必要書類の収集と送付:
特定できたら、後遺障害申請に必要な膨大な書類を全て被害者自身で揃えます。これには、診断書などの医療記録(レントゲンやMRI画像含む)、交通費明細書、休業損害証明書、交通事故証明書、印鑑証明書、その他後遺障害の症状を裏付ける資料などが含まれます。これらの書類を全て揃えた上で、加害者側の自賠責保険会社に送付します。 - 損害保険料率算出機構による調査:
送付を受けた自賠責保険会社は、後遺障害の有無や等級に関する調査・検討を直接は行いません。代わりに、中立的な第三者機関である「損害保険料率算出機構」(自賠責調査事務所)に調査を依頼します。保険会社は、被害者から受け取った書類をこの機構に提出します。 - 等級認定の結果通知と保険金支払い:
損害保険料率算出機構は、事故に関する客観的な調査を行います。事故現場の状況、治療の状況、症状の経過、提出された医療記録などを詳細に確認し、後遺障害の等級を判定します。この調査が完了したら、その結果が自賠責保険会社に伝達され、被害者に対して後遺障害の等級判定結果が通知されます。認定された等級に応じて、自賠責保険会社から保険金が支払われます。もし、認定された等級に不満がある場合は、「異議申立て」を行うことができ、それが認められれば上位の等級が認定される可能性もあります。
この一連の流れは、被害者自身で行うには専門知識と多大な時間、労力が必要となるため、非常に負担が大きいです。特に、むちうちで後遺障害が認定されるケースとは?といった複雑な症状の場合、適切な資料収集が等級認定に直結します。
自賠責保険への被害者請求の主な注意点とリスク
被害者請求は多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点やリスクも存在します。
自賠責保険への被害者請求には「時効」がある
交通事故による損害賠償請求権には、「時効」が設定されています。原則として、事故発生から5年以内に請求を行う必要があります(ただし、治療期間が長期にわたる場合など、ケースによっては時効の起算点が治療終了後となる場合もあります)。この5年という期間は、事故の態様にかかわらず一律です。
【民法改正による時効期間の変更】
2020年4月1日に施行された民法改正により、交通事故における損害賠償請求権の時効期間が、原則として3年から5年に伸長されました。これにより、被害者側にとっては請求の準備期間に余裕ができ、安心感が高まったと言えるでしょう。
後遺障害診断書の記載内容が非常に重要
被害者請求において、最も重要かつ注意すべき資料の一つが「後遺障害診断書」です。これは、後遺障害の等級認定に決定的な影響を与える書類となります。
前述の通り、自賠責調査事務所での調査は、基本的に提出された書面だけで行われます。つまり、面談を通じて症状を直接伝える機会はなく、診断書に記載された内容が全てとなります。そのため、診断書の内容が不十分であったり、適切な記載がなされていなかったりすると、本来認定されるべき後遺障害の等級が認定されなかったり、低い等級に留まったりするリスクがあるのです。
残念ながら、交通事故の治療に慣れていない医療機関の場合、後遺障害診断書に必要な情報のうち、重要な症状や所見が抜け落ちてしまったり、「改善した」など実際よりも症状が軽く捉えられるような不利な記載がなされたりすることも珍しくありません。例えば、神経学的所見(しびれや筋力低下など)が詳細に記載されていない、画像所見との関連性が不明瞭である、治療経過が十分に反映されていない、といったケースが見られます。
ですから、診断書を作成してもらったとしても、その記入内容を必ずよく確認するべきなのです。しかし、どのような内容を記載してもらえば後遺障害の等級認定に有利になるのかは、後遺障害の等級認定に詳しい弁護士でないと判断が難しいのが実情です。
ご自身の症状が適切に評価されるかご不安がある場合は、できるだけ早い段階で交通事故に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士は、診断書作成の段階から適切なアドバイスを行い、必要な情報が漏れなく記載されるようサポートしてくれます。
被害者請求の大きなメリット:早期の保険金受け取りと適切な等級認定
手続きの手間がある一方で、被害者請求にはそれを上回る大きなメリットがあります。
示談交渉を待たずに早期に保険金を受け取れる
被害者請求の大きなメリットの一つは、示談成立前に自賠責保険金を受け取れる可能性があることです。
任意保険会社からの保険金は、通常、加害者側との示談交渉が成立しない限り支払われません。慰謝料も、この交渉が終了してからの支払いとなります。しかも、その示談交渉は必ずしもスムーズに進むとは限りません。保険会社側が提示する金額が被害者にとって不当であったり、何らかの懸念事項があれば支払いを拒絶したり、交渉が長期化することも珍しくありません。
一方で、自賠責保険への請求(被害者請求)の場合は、自賠責調査事務所での調査が終了し、等級が認定されれば、交渉を挟まずに自賠責保険金が入金されます。これにより、示談交渉が長引いたとしても、まずは最低限の補償を早期に受け取ることができ、当面の生活費や追加の治療費などに充てることが可能になります。
交通事故に精通した弁護士へ依頼することで適切な等級になる可能性が高い
被害者請求のもう一つの大きなメリットは、適切な後遺障害等級が認定されやすくなるという点です。
任意保険会社に全ての手続きを任せてしまう「事前認定」の場合、保険会社が提出する資料は必要最小限に留まることが多く、等級認定が不適切になってしまうケースも多々見受けられます。
例えば、むちうちによる痛みやしびれが残った場合、本来であれば後遺障害12級と認められるべき症状が、保険会社に任せた結果14級になってしまう、あるいは非該当とされてしまう可能性も大いにあるのです。
これに対し、交通事故に精通した弁護士が被害者請求を行う場合、後遺障害の等級認定に必要な医学的資料や客観的資料を、被害者にとって最も有利になるよう、徹底的に収集・整理して提出します。これにより、本来認められるべき後遺障害の等級(例えば、12級など)で判定されやすくなる傾向があります。
弁護士に依頼することで、書類収集の手間が省けるだけでなく、保険会社や加害者との交渉も代行してくれます。また、後遺障害の等級が適切に認定されれば、それに応じて慰謝料の金額も高くなります。さらに、弁護士が交渉を行う場合、自賠責基準よりも高額な「弁護士基準(裁判基準)」で慰謝料を請求できるため、被害者にとって受け取れる賠償額が大幅に増える可能性があります。このように、弁護士に任せるメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
まとめ:後遺障害申請は専門家との連携がカギ
交通事故で怪我を負い、後遺障害が残る可能性がある場合、その後の生活や適切な補償を受けるために、後遺障害の申請は非常に重要な手続きとなります。
申請方法には、任意保険会社に一括で任せる「事前認定」と、被害者自身が直接自賠責保険に請求する「被害者請求」があります。特に、お怪我が重く、後遺障害の認定を狙うのであれば、被害者請求を選択し、交通事故に強い弁護士に依頼することを強くおすすめします。
被害者自身で必要資料を揃えるのは相当な負担ですが、弁護士に委任すれば、その手間を任せられるだけでなく、後遺障害診断書の記載内容のチェック、適切な資料収集、そしてその後の任意保険会社との交渉まで、一貫してサポートを受けることができます。
後遺障害の等級は、受け取れる慰謝料や逸失利益に大きく影響します。そのため、適切な等級認定を得るための準備と戦略が不可欠です。少しでもご不安がある場合は、できるだけ早い段階で、交通事故案件の実績が豊富な弁護士に相談し、最善の選択肢を見つけるようにしましょう。


